日記

一年前にこのような状況下になってから、今日、初めてファミレスでテイクアウトを頼んだ。
少し残業をして、時間を見ると20時前。急げば近くの大戸屋に間に合うかもしれないと、急いで帰り支度をして会社を出る。だが、今すぐに何かを腹に詰めれるほど空腹ではなかった。ちょうど17時ごろに職場の人間にパフェを奢ってもらったのだ。

そのパフェは、ファミレスやコンビニにあるような軽いものではなくパフェ専門店の中にある本格的なものだった。そもそもパフェがそこまで得意じゃないにもかかわらず、その店に誘ったのは私自身だった。
単価が1800円するだけあって、パフェ自体はとても美味しくボリュームもかなりあった。特に私が頼んだパフェは求肥やクリームがたっぷりと入ったものだった。お腹が空いていない。甘ったるい胃を抱えながら渋谷の道を早歩きする。このまま大戸屋にいったとて気分良く食べることができるのだろうか。私は歩く速度を下げながら、どうしようどうしようと気分が乗らない体を必死に前に動かす。

 「そしたら持ち帰りして家で食べればいいじゃんね〜」

 急に、本当に唐突に頭の中にギャルが出てきてそう言った。
考え事をしているとたまに脳内で別の人格が出てきて会話してしまうことがある。人に何かを話すと自分の意見や気持ちがまとまってクリアになることがあるだろう、セルフでそれをこなすほど私は友人が少ない。
家までは大体1時間ほどだった。それくらい間をおいたら少しは空腹感を取り戻せるかもしれない。最悪、持ち帰ってすぐ食べなくとも、風呂上りや明日の朝に食べたっていい。自分の胃が強いことを思い出したので、大戸屋ではテイクアウトをすることにした。気持ちが固まると行動が早くなる。一時速度を下げていた私の足は迷いなく大戸屋に歩みを進めた。

とはいえファミレスでテイクアウトを頼むのは初めてのことだった。大戸屋についた私は「お一人さまですか?」と聞いた店員に「持ち帰りなんですけど......」と言ってみる。牛丼屋なら持ち帰り専用の注文スペースがあるが、ここには見当たらない。
私の言葉に少し戸惑った店員は、それでも席を勧めてくる。えっ、と思った。私の言葉が聞こえていなかったのだろうか、と不安になったが別の店員がそれでも席を勧めてきたのでとりあえずついていくことにした。
これで店員が注文を聞きに来て、もし持ち帰りの旨を伝えたときにやっぱり別の注文スペースに案内されたらどうしよう、と思った。いったん席についてまた席を立つのは少し恥ずかしいな。いつもならそこまで考えなかったのだが、今日はなんとなく疲れていて想定外の恥ずかしさを受けることさえ避けたかった。気持ちのキャパはわりといっぱいだ。そういう時は少しの感情の揺れが人を不安定にさせる。

ごにゃごにゃ考えていた私をよそに、思ったよりもスムーズに注文が進んだ。そうか、今は待たせてしまうから、うろうろ店内にいられるより席についてもらう方がいいのか。
時間をみると20時15分を回っていた。そろそろラストオーダーの時間なのだろう。レジが混むことを考えると尚更じっとしてもらうのがいい。少し感動した。私が来ていない間にファミレスは進化している。

昔からあまりファミレスに縁のない人生だった。何か重大な理由があったわけではないが、小さい頃から家族でファミレスにいくことが少なかった。幼少期の私は確かにわがまま言いたい放題で、これを食べたいと言った次の瞬間には別のものが食べたいと行ってしまうような、非常に面倒臭い子供だった。相手をしていられないと両親も思ったのか、結果混み合いやすいファミレスやジャンクフードの店に連れて行かれることは少なくなった。
そのまま育ってきたので、自分で友人たちとご飯を食べるようになった時も、サイゼリアとかマックとか、ほんとうにメジャーな店にしか行くことはなかった。友人に一度も日高屋に行ったことがないと言うと驚かれる。大体は高校生あたりで行くらしい。

ぼーっとしていると店員が袋に入れた弁当を持ってレジに促してくれる。頼んでからの間、結局どの席の客もレジに向かって行かなかったので、席について何も頼まずレジに行く人みたいでちょっと面白かった。
弁当は微かに暖かかった。電車に乗って席に座った時、膝の上に載せていたら絶妙な温度で体の温度を少し上げ、そのせいか私は眠ってしまった。そのまま一駅寝過ごした。疲れた。