私の料理を見るな

料理を作るとき、人に見られるのがすごく、ものすごく苦手だ。

一人暮らしをして4年経つ。実家にいたときはほとんど自分で料理を作るときなんてなかったけれど、ひとりですべてやらないといけない環境に置かれていると、必要に迫られて料理を作ることになるのは分かりきっていたことだった。

そこまで料理の腕に自信があるわけでもないが、やる回数が増えるとどうしても「作りたいものを作る」ということから「あるものを使ってご飯を作る」という思考になりがちだ。私は食欲に貪欲な方なので、食べたいものは基本的にその時に食べないと気が済まない。でもいつ何時も食べたいものが決まっているわけではない。そう思うと「人のために料理をする」というのは、献立を考える点ではとてもやりやすい。その人が食べたいものを作れば大体間違いないから。

というわけで、あまり自信がない私でも人に料理をふるまうのは結構嫌いじゃない。
だが! 基本的に独身、在宅勤務、ひとり暮らし四年目にもなると自宅で人がいることに、すごく違和感を感じることがある。得意じゃないことをやろうとするには集中がとても必要な人間なのだ、私は。
なので、料理をしているときに人に見守られているととても緊張する。自分が思っているよりも倍緊張してしまう。私がものすごく大雑把な性格なのもある。炒めてしまえば、煮てしまえば、胃に入ってしまえば一緒よね。という考えで料理をしているから、千切りをするときに猫の手をしないし、皮も大体剥けていればいいだろうと思ってしまう。
でも、他人はそう思わない。そりゃそうだ、好き好んでまずいものを食べたい人なんて少ないんだから、料理をする人には丁寧に、味見もちゃんとして、おいしいものを食べさせてくれよと思っているに違いない。そういった本当にあるかもわからないプレッシャーにどぎまぎして、他人の視線を感じるたびに包丁を持つ手が汗ばむ。


私も以前は他人が料理をしているところを見るのが大好きだった。
なんなら料理をしているときに人を放っておくなんて、冷たいだろうとさえ思っていた。今でも、自分ではない誰かが料理をしているときはなんとなく参加したほうがいいのかな、と思ったりする。しかしいざ自分が料理をする側に回ったときに、人に何か作業を見られているのはとても緊張するものだと分かった。

自分が料理を見られるのが嫌だなと初めて思ったエピソードがある。
友人を招いたときに、たまたま料理をふるまうことになった。献立自体はハンバーグとか、付け合わせのキノコソテーだとか、本当にありきたりなものだったが、盛り上げてくれていたのだろう、友人は私の一挙一動に茶々を入れてきた。
最初は「参加してくれているのか、かわいいやつめと」思っていたのだけれど、私がちょっと手抜きをするたびに
「え! それ大丈夫なの~」
「もっと火入れなよ」
「雑、ざつざつ雑~」
など言われて、初めて自分の料理が大雑把なのだと気付いた。たしかに実家にいたときに、母親や父親が料理をしているところをまじまじと見たことはなかった。せいぜい、頼まれてニンジンの皮を剥いたりするくらいしかキッチンに立つことはなかったのだ。
それを自覚してからすごく料理がやりづらかった。何か言葉を発せられるたびにもうやめてくれ!! と言いたくなる。手汗がどんどん出てきて、挙動不審になる。
ここら辺詰めていくと、もう私の料理のやり方や感覚の過敏さなどの問題になってくるが、簡単に言うととっても、恥ずかしかったのだ。

その後もその友人だけではなく、過去付き合ってきた恋人たちにも料理をまじまじと見られることがあった。気を使っているのか、本当に何もわからなかったのかは知らないが、彼らは茶々を入れてくることは少なかった。しかし、すでに人に料理を見られることが苦手になっていた私にとっては全部のシーンで、
「見ないでくれ!!」
と言いたくなるほどに緊張していた。結局勇気が出ないのとそれを言う別の恥ずかしさもあって、料理シーンはすべて見られることになった。

少し前に、初めて料理をしているときにそばにいない人と出会った。(出会った?)
逆に人に見られていることが当たり前になっていた私にとっては、少し寂しい思いもあったのだけれど、それ以上に安心して料理ができるということがありがたかった。
ありがとう! 見ないでくれてありがとう! と出来上がった料理を持って行った時の、何言ってんだこいつ? という顔をされて、私の自意識過剰を恥じることになったけど。


なんでこの話を書いているかというと、少し前に元恋人と話す機会があったからだ。
去り際にすごくむかつくことを言われたのだ。
「もうちょっと部屋の掃除と、料理のやり方を頑張ったほうがいいかもね」
原文ママである。そう悪くない別れ方をしたつもりだったが、一気に腹が立った。それはあなたが私の料理を見てたからでしょ、と言おうと思ったときには、彼はすたすたと歩いて行ってしまった。
まあもういい。私がそういう人間だと分かったことだけでも良かった。少しもやもやとした気持ちを持ったまま、私も帰路についた。

ちなみに、部屋は普通に汚いです。