他人が肉を移動してくる

いつのまにかSNSで出てくる広告が下着の広告ばかりになってしまった。別に最近下着のECを見ていたとか、下着メーカーのアカウントとかを見ていたわけではないのに何かしらのマーケティングのターゲットに引っかかったのか毎日毎日下着の購入を勧められて複雑な気持ちになる。たまに女性用の下着のキャッチコピーを考える人になったら楽しかったかなと思う時がある。

「掴んだ肉を離さない♡まぁるくバストメイク(まぁるくの"ぁ"の部分ってば!)」「毎朝つけたくなる下着(つけないことがあるという前提がないと出てこない言葉)」
一瞬目を疑うようなこってりしたキャッチコピーを見かけることもあるが、こういったコピーほど何回も会議を重ねて出て来た言葉だったりするものだ。昔仕事でキャッチコピーの誕生の瞬間に立ち会ったことがある。コピーというものは想像以上にいくつもの言葉を組み合わせて、会議や思考を重ね、それはもうたっぷり時間をかけて決定される。売り出す商品のフックになるものだから力を入れるのは当たり前とも思える。が、たまに見かけるとんでもない言葉が羅列されたキャッチコピーでも時間をかけて作ってあると思うと、ある種頭のネジを意図的に外さないと仕上がらない狂気みたいなものが必要なのかもと感じてしまう。それと同時に普段のコミュニケーションではなかなか出てこない濃ゆ〜〜い単語が仕事の会議で大量に並べられてひとつひとつ選ばれているのを想像したら、かなりシュールで面白かったと思う。実際やってみるとおふざけひとつない真剣な場だということの方が多いのだが。プロ意識がなせるということか。

プロといえば、(女性ならわかってもらえると思うが)女性の下着販売店にもとんでもない販売員がいたりする。女性の下着は胸部につけるものだったら大体試着できる。自分で付け心地を確認するだけの場合もあれば、店によってはきちんとその下着を付けられているか調整してくれる場合があるのだ。どうしても商品の性質上自分の体を触られることが必須になるのだが、初めて店員に調整を頼んだ時、本当に体の肉をそこまで大移動させてもよいのですか? というほどグイーンと引っ張られてかなり焦った。割とこの意見はあるあるで、大体ちゃんと調整してもらった人は同じ感想を持ったりする。
たまにベテランの店員に当たると、すごい。全ての肉を全て下着の中に入れ込むわよという意志を感じるほどにぼんぼん詰め込んでくる。確かにそのあと鏡を見ると知らない世界が広がっていることが多いが、その感動を打ち消すくらいには大胆な手捌きで己の贅肉の形を変えてくるので、ありがたいと思いつつも緊張してしまう。

こういうことがあるたびに男性も似たようなことがあるのかな〜と考える。私は男性の体になったことはないので想像もつかない。敢えて言うならスーツを作る時とか? でもスーツを仕立てる時に自分の肉を衣服の中に詰め込まれるという体験はしないだろうなとも思う。別にすごく知りたいわけではないので、異性に直接聞いたことはないが輪廻転生を信じるなら来世男性に生まれたときは身につけるものの衣服全て、一回は試着してみようという気持ちは少しある。