大人になるたびにホタルイカのことがうまいと思える

某日

お笑いライブに行った帰りのことだった。なんとなく気が向いて片道40分の帰路を歩いて帰ることにした。今くらいの気温なら少し歩いたとしてもしんどくはならない。お笑いライブを見た後に、同じ場所にいた客たちがぞろぞろと駅の方に向かっていく。それに混じるのがどうしても苦手で、いつも時間を潰したりあまり使われないルートで自宅に帰るようにしてしまう。その日もそういう理由だった。
ひさしぶりにライブ会場から歩きで帰宅した。まだ深夜というほどの時間でもなかったので人通りは割とある。ぼーっと歩いていると、どこからか男の叫び声が聞こえてきた。
やばい人かもしれない!
私は思わず声の主を探そうとして、できればその人物から離れようとした。周りにいた数人の他人も、同じような動きをしている。今いる道の先に声の主がいた。目を離さないように、じっくり見ていると、彼は1人で歩いているのではなく幼稚園児くらいの男の子をおんぶしていることがわかった。幼児は叫び声に合わせて楽しそうに喋っていた。なんだ家族のじゃれあいの勘違いか。
と思っていたら、その親子を通り越すときに、親の方が道端に唾を吐いて何かを口走っていた。怖くて振り返れなかった。1人じゃないのに叫ぶ人っているんだと思った。

 

某日

深夜に人が来た。0時すぎに行くねと言われたのに友人が来たのは夜の2時前だった。遅いよ〜と文句を垂れた。友人はコンビニの袋を差し出す。前にもこんなことがあった。

結構昔、仕事で知り合った友人が私の家の近くに住んでいるということがわかって、「いつかお邪魔しますね」と言われていた。案外すぐお邪魔される日はやってきて、そう言った一ヶ月後には友人の姿が自宅に存在していた。当時私は紙巻き煙草を吸っていて、喫煙するために換気扇の下に行くとわざわざ友人もついてきて喫煙者でもないくせにタバコの煙にぶち当たりながら「臭い、臭い」とゲラゲラ笑っていた。年は私の2個上だった。だいたい仕事終わりにやってきて、他愛のない話をしながら食事をし、0時過ぎには帰って行く。当時あまり家に人を呼んでいなかった私にとってはたまに来てくれる人物は有難い存在だったが、彼女はただ単に暇つぶしで私の家に来ていただけでしかなかった。

彼女との思い出は実をいうとほとんど無い。頻繁に家に来ていたわけでもないし、外で飲み食いをしながら時間を過ごしたわけでもない。ただ暇な時に私の家に来て喋っていただけだった。
彼女が一度、家に来ると言った時間から大幅に遅れてきた時があった。家に来たのは深夜3時だった。もうそんな時間なら来なくてもいいのにと思っていたが、次の日は休みで予定が遅くからだったので、私はなんとなく眠れなくて待っていた。彼女が家に来た時、ごめんねっと謝って後はいつも通りだった。お詫びだよお、と私の好きなアイスを渡された。しっかり自分の分の好きなアイスも買って。私は(多分)自分用に買われたアイスの蓋を開けた。

***

遅れて2時にやってきた友人は、レトルトの味噌汁を買ってきていた。ちゃんと2人分買っていて、私は(多分)自分用に買ってきてくれた味噌汁をもらった。味噌汁は次の日飲んだ。その時に昔の友人を思い出してしまった。
今あの子は何をしてるんだろう